剣の王国まとめ

comicoで掲載されている漫画「剣の王国」のまとめです。作品振り返りにどうぞ。

剣の王国 第138篇「月夜の道中」まとめ


 馬車はコローディを抜けた。
 車内はなんだか重い空気が漂っている。うなだれる座長と、その対面で威圧的に肘をつくアルフレド。そしてその隣では、存在感を消すかのごとく、うつむくドロテーア。この重苦しい馬車を引くのは一人の御者……ではなくパンチネロだ。御者の人形だろうか、その顔部分に埋め込まれている。不満げに顔をしかめた鶏が埋め込まれているのだ。コケー。
 車内では、不安をにじませた座長がアルフレドにお伺いをたてる。「い、言われた、言われたことはやった。取引は終わっただろう。なあ……いつまで私を拘束するんだ、馬車はどこに向かってるんだ」
 するとアルフレドは、「解放するとは言ったがいつとは言ってない」しれっと答えた。
 座長は思わず声を上げる。「私をどうするつもりなんだ‼︎ 私のサーカス団はもう終ったんだ、火事で‼︎ 全部‼︎ 今の私には……何の利用価値もないぞ‼︎ 君の目的は何だ‼︎ 金か⁉︎」アルフレドはついつい鼻で笑い、ため息をつく。「だが見ただろう‼︎ すべて燃えちまった」
 座長はアルフレドの隣に座る少女にも顔を向けた。「なあ娘さん、君からも……」座長は、気まずそうに顔を上げた少女を見て、動揺した。「え……⁉︎ え……君は黄色い服の……サーカスに乱入した女……」そう。ドロテーアは既に新しい服に着替え済みで、髪も以前のように下ろしている。一見身なりの良いお嬢さんといった感じなので、先程まで眠っていた座長は気づかなかったのだろう。「そうか……おまえたちか、私のサーカスを潰したのは……」座長はすっかり意気消沈とうつむいた。
 その隙に彼女はツンツンとアルフレドを突つき、小声で話しかけた。「ねえねえアルフレド、これからどうするの?」
 アルフレドは再び肘をつき、はっきりとした声で答えた。「トレンデルで夜汽車よぎしゃに乗り、海峡を渡る。その前に、だ。お前について話そうか」
 ドロテーアはどこか不安げに気構えた。
「コローディに着いて分かったこと。お前は指名手配されていない。オズとかいうバカ以外初見でお前のことを『銀細工の部族』と認知できた人間はいなかった。今後もそうか? 否、お前の親父が先月捕まってる。女王のSPELLによって銀の靴の持ち主は簡単に判明する。やがてお前は国中のお尋ね者になり、目撃情報をもとにやってきた王都の主幹に捕えられるか殺されるのがオチだ。親父を救うどころじゃない」
「だから」
「先手を打った」
「手配書発行の前に民衆に植えつける。銀細工師の部族長の娘は存在し、そして『死んだ』と」
「おいおい」座長が話を遮った。「さっきから何の話をしているんだよ! もう馬車を止めてくれ」なんだか焦った様子だ。
 しかしアルフレドは構わず続ける。「新聞ブロード・サイトに載らなかったとしても、サーカス会場にあれだけの見物人がいたんだ。情報は拡散する。そいつらをハブとしてな」馬車の車輪が音を立て、自ら自らと進んで行く。
「火事を起こしたのは『死の偽装』――何人か女性客が焼死してくれれば、女王をおそれる街の責任者は、『これが例の娘の死体です』って処理するだろ」このアルフレドの言い草に、ドロテーアは困惑した。「国が余程馬鹿でない限り、死人を指名手配なんてしない」
「なあ」座長が苛立たしげに割り込む。「いい加減にしてくれないか、馬車を止めてくれ。早く……早く」いったい、何をそんなに焦っているのか、もよおしたのか?
 座長は外へと視線を投げる。「暗くて外の景色が分からない。もうここは……コローディ圏域けんいきじゃないのか」座長の声が震え始めた。「もう……だめだ」拘束された彼の手元に、小さな電流が走る。
光芒の尾紐ニール」不意にアルフレドが詠唱した。
「ぐぎゃ‼︎」たちまち座長の目元が紐で覆われ外へと引っ張られた。まるでマグロの一本釣りだ。彼の体は勢いよく窓から突き出す。アルフレドはピクリとも表情を変えず、紐を引くような仕草をする。その後ろではドロテーアが悲鳴をもらし、身をかがめた。
 馬車のドアは破壊され、光の紐に釣られた座長が外へと飛び出してくる。そして地面に落ちるや今度は砂の上を引きづられた。やがて彼は牽引力と紐から解放されると、「ぐぅぅ……」呻き声をもらし、うずくまった。
「どうやら、この辺りが境界らしいな」
 馬車も停車していて、中からアルフレドが出てくる。
「約束は守るぜ」
 月明かりの下、アルフレドは男を見下ろす。
「この世の苦しみから解放してやるよ」
アルフレド‼︎」ドロテーアが馬車の中から呼びかけた。「何が起こったの⁉︎ 大丈夫⁉︎」
 彼は構わず続ける。
「お前にもあるんだろ、奴隷印」

 TO BE CONTINUED...