剣の王国まとめ

comicoで掲載されている漫画「剣の王国」のまとめです。作品振り返りにどうぞ。

剣の王国 第104篇「お人好しバカ」まとめ


「なになにどうしたの」「なんか喧嘩?」
 夜、街で一番高い塔から、ライトで照らしたような光が、いくつか動き回っている。
「あの屋上じゃない」「警備隊がきてるよ」「喧嘩なんてよくあるじゃん」
 街の人々は口々に、屋上での出来事を噂した。

 屋上では現在、緑色の制服と制帽を被った警備隊らしき人たちが、懐中電灯を照らし、一辺倒に切り落とされた壁や、ひび割れた地面をくまなく調査している。まったく、どこの誰だか知らないが、いったいどんなやんちゃをしたらこんな事になるのか。
「いいか、ここで何があったか正確に突き止めるんだ。一切の痕跡を逃すな」
 女性の指揮官が指示を出す。彼女の制服には、何かの勲章だろう、メダルのついたリボンが胸に掲げられていて、袖口には白い一本線が入っている。
「夜勤組は周囲の飲食店および風俗店、宿屋に手配犯らしき人物を見かけなかったか聞き込みをするように。常昼班じょうちゅうはんはあと30分後に撤収」
 彼女はコローディ警備隊、バネッサ副官。ワンレンのショートボブに、おでこにリング状の飾りがくるヘッドアクセサリーをつけている。耳の長い種族の、妙齢の女性だ。
 部下の男が、指示を仰いだ。
「ボンバイエサーカスへはいかが致しましょうか」
徒労とろうに終わるわ。ほっときなさい」
「しかし、これだけのことを彼ら以外に成し得るでしょうか」
 確かに巨人でもなければあるいは。
「新入り君、これは戦闘の跡よ。連中なら一方的な虐殺しか行わないわ」
 ふとそこへ、黄色と黒の縞模様の尻尾を垂らした人物が近付いてくる。
「各班とも遅くまでご苦労」二足歩行の虎だ。「それで状況は?」
 えらく貫禄がある。三つのメダルリボンに、二本線の袖。彼はコローディ警備隊、ダッカー隊長だ。
 新入り君とバネッサは、とっさに敬礼する。
ダッカー隊長!」
「あなたが来られるとは」
 早速新入り君が状況説明をする。
「本日17時頃、この屋上現場にて戦闘が行われた模様。当事者および経緯は不明、いくつかの形跡から本件の当事者たちは超人的な身体能力、もしくはSPELLを使用したと思います」
「ありがとうハイルトン、下がってよろしい」
 ダッカー隊長はバネッサに確認する。
「死体は無しか」
「ええ、ですが毛髪を発見しました」
「色は?」
「金です」
「例の集団か?」
 いぶかしげな表情を浮かべる隊長。バネッサは懸念を口にする。
「そうだとしたら事は深刻です。この街に潜伏していたと王都エメラルドに伝われば……」
「ああ」
 隊長は途端に険しい顔つきになった。いったい、どのような理由かわからないが、
「街中の馬屋うまやに店を閉めさせ、港には就航しゅうこう制限をかけろ」
「承知しました」
 改めて、この塔の傷跡を眺める。
金冠ゴールデン・コロナを、捕獲するぞ」
 とかく、彼の使命感に、火がついたようだ。

 ドロテーアはぼんやりと目を覚まし、
 また閉じる。
 微かな振動と、どこかで嗅いだことのある香り。
 彼女ははたと気付く。
 今自分が眠っていたのは、アルフレドの背中だ。
 彼は彼女の足を抱え、彼女を背負い、彼女のカバンも肩にかけ、自分のリュックは腕に吊るしている。
「あれっ……‼︎ 私どうして……」
 途端に慌てふためく。
アルフレド、私、歩けるわ、ごめんなさい、重いでしょ」
「おっ、起きた、おドジ起きたか!」
 アルフレドの足元を、ぴょこんと飛んでついてくるパンチネロ。
「ここは……?」
 一行が歩いているのは、街の中央を流れる川のほとり。先の戦闘を繰り広げた塔からは、いくらか離れたものだ。
アルフレド、来てくれたんだ……」
「宿に向かってる。一泊するぞ」
「誘拐犯なら俺様が撃退してやったぞ」
 アルフレドは、ドロテーアの方に少し顔を向ける。
「で、どこまで覚えている?」
「あ……えっとオズ-ワーロックさんって人からみぞおちに強烈なパンチを頂いたところまで……」
 ドロテーアはふと気がつく。
「あ……」
 アルフレドの右肩に、血が滲んでいるのだ。
 何があったのか、想像する。
 彼が傷を負っている意味。
 やがて二つの気持ちが生まれる。
「あのねアルフレド
 今度は慌てない。
「私、歩けるよ。ありがとう」
 アルフレドはゆっくり膝をつき、彼女を下ろす。肩にかけていた彼女のカバンも、なんだかぎこちない手つきで肩から外す。
「他に怪我は? 痛みはどうだ」
「ないわ、大丈夫よ」
 アルフレドがカバンを渡し、
 ドロテーアがカバンを受け取る。
アルフレド……その怪我、オズさんと戦ったんだよね……」
 ドロテーアは申し訳なさそうに、顔をうつむかせる。
「ごめんね……でもその……嬉しい。アルフレドたちが探しに来てくれたから」
 したたかに、
 したたかに、
 彼女は微笑む。
「ほんとにごめんね、迷惑かけてるのに、こんなこと言って」
 こんなにも真っ直ぐにボールを投げられてしまうと、アルフレドはどうにも面食らってしまう。そして、決まりが悪そうに顔を背け、言葉を探す。
「あーなんつうの……」
 二人の足元では、頭にはてなマークを浮かべたパンチネロが、彼らを交互に見やった。
「後悔と槍持ちは先に立たずだが、今回のトラブルも広場での俺の発言に起因きいんしたし、これでチャラで問題ないだろ」
 背けた横顔の、赤い毛束に隠れた目元。まるで、しおれた花のよう。
「問題ナッシング‼︎」
「だよ‼︎」
 グッと拳を掲げ出すドロテーアと、ビクッと肩を驚かせるアルフレド。そして彼女は、元気よく先導し始めた。
「さあ行こう! 宿に着いたら傷の手当てするね」
 パンチネロがぴょこぴょこと着いて行く。
 アルフレドは少々困ったような顔で彼女の背中を眺め、やがてため息とともに踏み出す。
 ――無理してんのバレバレだっつーの、ほんとお人好しバカ
 ごしごしと頬をこすった。
 すっかり暗くなった夜空に、まばゆい光が咲き誇る。
「あっ花火だ」
「祭りか祭りか⁉︎」
「ああ」

「そうだな」

 TO BE CONTINUED...