剣の王国まとめ

comicoで連載中の漫画「剣の王国」のまとめです。作品振り返りにどうぞ。

剣の王国 第103篇「そこでストップです」まとめ

 市場いちばの通りを、とある二人組が歩いている。
 二人組といっても厳密には、片方は二足歩行の犬なのだけど。もう片方は赤いバンダナの男。サングラスに真珠らしき宝石のピアス、筋肉質な肉体に、金のネックレスをジャラジャラと身につけ、その素肌には胴着ベスト一枚だけ。なんだか一昔前のヒップホップ風レゲエミュージシャンのような風貌だ。
「チェケチェケラ♪」
 突如口を開き、どら焼きのようなものを食べ始める。
「うまうま♪ もぐもぐ、うーん旨しだなあ〜」
 食べながら歌う。
「歌うか食うか喋るかどれかにしろ」
 犬に突っ込まれる。
 体長はおよそバンダナの半分ほどなので、いわゆる子供の背丈なのだが、この感じだと犬の方が年長者かもしれない。耳の長い犬種で、膨らみのある帽子にゴーグルをかけている。スチームパンクちっくな風貌。
 ふとバンダナが何かに気づく。
「ん?」
 そして屋台の前で足を止めた。
「チェケラ‼︎ ねえ見てよブラザー、千眼せんがんトカゲの目玉だって」
 千眼トカゲ……怪物鯨とどちらの方が目が多いのだろう。緑の角膜をもつ目玉が三つ、串に刺されて焼かれている。
「俺の話聞いてるか?」
「うわーきもい、でもうまそー」
 店主が目の前にいるというのに。
「らっしゃい」
 問題ないようだ。
 ピーン。
 突如ゴーグルの耳が反応する。
「おい」
「うん聞こえた」
 バンダナも気づいた様子。
「まさか……」
 えらく動揺するゴーグル。周囲を見渡すと、とある塔の屋上から、キラっと何かが反射した。ゴーグルは目を見開く。
街中まちなかで使ってんのかあの技」
 ゴーグルは尻尾をピキンと硬直させる。
「冗談だろ……」
「まあオズ様キレるとひとまず暴れるからね」
 確かに、あの塔は現在、アルフレドとオズが睨み合っている所だ──

 オズの魔剣は異様なオーラを放つ。
「これまで多くの敵と戦ってきたが、正直、君のようなぞくは初めてだよ」
 カラン。
 オズは剣を持ち直す。
「なんだろうこの感じ、イデオロギーの対立はないが」
 涼やかな目元がアルフレドを見据える。
「……いや、だからこそ無視できないのかもしれない」
「おいおい、これどーなってんだ、視界が歪んでんぞ」
 パンチネロが騒ぐ。こんなにぐにゃぐにゃと周囲けしきが歪めば、三半規管も異常をきたす。クラクラしてしまう。パンチネロはすでに酔っている様子。
「アイツの剣が変形したのが影響してんのか⁉︎」
「ああ」
 アルフレドが返答する。右腕を掴み、羽根ペンを呼び出す。
「大技がくるぞ」
 禍々まがまがしいオーラを放つ大剣。
 ──ゲミ炭素からSPELL粒子への擬似変換
 アルフレドは数式を記述し始める。
 ──および値域ちいきの数値化
 ──素因数分解のちに高炭素鋼こうたんそこうへの過程を計算
 ──必要化学物質の添加
 ──次元数式による生成物を最短5.0秒のLTリードタイムに略式化……
 ──間に合うか……⁉︎
 突如光の文字で数式を記述し始めたアルフレドに、オズが反応する。
「フフッ、他にもSPELLを所持してるのか」
 語気を強める。
「だが無駄だ」
「これは、鬼人トロールをも両断する魔剣」
 その魔剣で一人の人間を斬ろうというのだから、いったいどれだけの怒りが込められているというのか。オズは膝を曲げ、魔剣を担ぐ。すると、みるみるうちに黒いオーラが周囲に漏れ出す。いずれ、この世のあらゆる物質を飲み込んでしまいそうな。
 アルフレドは未だに数式を記述しているのだが。
「おいおいおい赤チェリー野郎、ふざけんなよ、お前、男ならしっかりドロテーアを守れ‼︎」
 パンチネロが野次を飛ばす。
「フフッ、君たち仲いいね」
 オズはいちいち思ったことを口にするタイプらしい。一方のアルフレドは黙々と、
 ──クソ、間に合わねえ
 突如、アルフレドの肩めがけて、何かが飛び出した。
「オラァ」
 パンチネロだ。アルフレドの肩を踏み台にして、空高く飛躍する。
「いい加減見てらんねーんだよ‼︎」
 青筋を立てながら、オズに向かって急降下して行く。
「こんなスカシ野郎に手こずってんじゃねーぞ」
 そして「オイお前‼︎」とオズを名指しする。オズも驚いた様子で空から降ってくる鶏を見上げた。
「この俺様が本当の戦いってやつを見せてやる。燃えよドラゴンチキン、怒りのパンチ蹴り‼︎」
 オズは向かってきた鶏を、ヒョイっと避けた。
「非力。」
「斬るにあたいしない」
 確かに気軽に振り回せる大剣しろものでもないが、これは、騎士たり得ようとする彼の流儀びがくなのかもしれない。
 パンチネロはあえなく地面にバウンドした。
「アウッ‼︎」
 オズは判断を誤ったのか。気がつくと、敵対する相手の足が、何やら仰々しい装備で覆われている。パールピンクの光を放つ、はがねあし
 ──具現化数式「黒騎の鐡脚クライトン・グランデ
 アルフレドは、皮肉じみた笑みを浮かべた。
「まさか鶏に助けられるとはな」
 オズはすかさず魔剣を振る。
 ──言葉は不要
 オズの一太刀は、周囲のブロックを切り刻み、やがてアルフレドの首を通過しようとしている。彼のすぐ近くには、ドロテーアも横たわっているのだ。しかしアルフレドはあろうことか瞳を閉じて──
 0.1秒、目を見開く。
 0.3秒、ドロテーアを庇うように身をかがめる。
 次の瞬間にはすでに、オズの目の前へと移動していた。
 0.7秒。
 ──⁉︎
 オズは混乱した。
 ──何が起きた
 ──何故こいつはこんな近くにいる?
 ──一太刀をかわしたのか
 ──馬鹿な……‼︎
 その時、
「お待ち下さい‼︎」
 二人を止める声があった。
 二人は空気を張り付かせたまま、体を強張らせたまま、声の主を振り返る。
「オズ様、そこでストップです」
 声の主は、先程市場を歩いていたバンダナと、
「おーおー……面倒クセーことになってんな」
 くわえタバコのゴーグルだ。
「とりあえず赤い少年よ、君もほこおさめたまえ」
 アルフレドなだめるゴーグル。
「矛?」
 バンダナが疑問を口にする。確かにアルフレドの武器は「矛」ではない。
「そういう言い方があるんだよバカ」
 とりあえず彼らは、オズの鎮静役のようだ。

 TO BE CONTINUED...

補足

イデオロギー=政治や宗教などの社会的立場による観念、思想、それらを体系化=いわゆる立場を示すために提示される考え方、主張。