剣の王国まとめ

comicoで連載中の漫画「剣の王国」のまとめです。作品振り返りにどうぞ。

剣の王国 第98篇「楽園は犠牲の上に建つ」まとめ

「だが、やはり、愛だな」
 オズはドロテーアを振り返り、一人納得する。
 一方アルフレドは、人ごみの中を探し回る。パンチネロを肩に乗せ、しきりに周囲を見回す。ちょうど、二人が走り抜けた市場だ。風船の塊が遠くに見える。
 彼らが探すドロテーアは、相変わらず手を引かれ、そしてとても困惑している。理解が追いつかない。

 今の何?
 馬車を斬ったの?
 よく見えなかった
 どうしよう、目立っちゃダメなのに私……

 彼女はどうやら、塔の屋上に連れてこられた。ここが「アルカナの塔」なのだろうか。
「あの、オズさん……ここはどこでしょうか?」
 オズは相変わらず彼女の手を引いたまま。
「フフ、君の声、猫みたいに震えてるね。可愛いよ」

 かわ……っ⁉︎ あわわわ

 彼女の乙女心が動揺する。それは、彼女の頬や耳にも現れてしまう。しかし彼女は、まだ何の確信も得ていない。
「あのー、さっきのあ、あああいあいってどういうこと……でしょうか」

 私に対してじゃないわよね、ぜったい

「ミス・グレーテ」
「ヘイおまちっ」
 テンパるし、迫られたら、テンパるし。
「?」
 やたら緊張しているドロテーアとは裏腹に、オズは至って真剣だ。思えば彼は、最初から真剣だった。
「何が見える?」
 それは思いもよらない問いで、
剣の王国このくにに」
 思いもよらない視点。
「お父上のグランピウス殿は、君の安全を考え、王政の影響を受けにくいアーカンザスの地で、君を普通の女の子として育てていたようだが、それは間違いだ」
「我々は、先代の国王の時代まで執政しっせいを担っていた、選ばれた五部族。悪しき魔女が女王となった今も、この国の将来に責任を負う」
 オズはドロテーアに向き直る。
「金細工師の部族長の息子、オズ-ワーロック。私の名だ」
「そして君は、銀細工師の部族長の娘、ドロテーア-グレーテ。千年に渡ってこの国の財政を担った必要欠くべからざる部族のおさとなる存在」
 それは、思いもよらぬ認識。
「私は……そんな……」
 彼女の認識上では、それは既に過去のこと。
「そもそも五部族制度はなくなったのでしょう。それに銀細工師の部族は滅んだのでは? 女王様が治めているい今も、とても平和だと思います」
 オズは、
「ここに連れてきたのには理由がある」
 片手を広げ、彼女にここからの景色を眺めるように促す。
「辺境の地、アーカンザスでは見えなかった景色を、見せるためだ」
 この塔から見える、
「この街の」
 一枚の布を着せられた若い女性たちは、足を縛られ、順番を待つ。彼女たちの体には、いたるところにアザがあり、自分の番がくると、全身に水をかけられ、丸坊主にされ、人々の前に晒される。奴隷を買うため、あるいは見世物を見るため、彼女らの前に人々が集まる。
剣の王国このくにの」
 彼女は、虚ろな表情でその時を待つ。まるで、「痛み」という概念を、とうに忘れてしまったかのように。彼女に刻まれた手首の縄の痕も、腕に刻まれた奴隷の印も、
「何処に」
 あるいは身体中に鞭の痕が刻まれた男達も、ワインをたしなむ貴族の前で、汗を流し、血を流し、
「生命の尊厳が」
 涙を流し、力を込めて、相手の首を絞める、絞められる、奪われる、堕とされる、ただただ支配されてきた事の傷痕あかし。ここに彼らの尊厳は、
「あるのだ」
 ない。
 ここでは、死んでなお晒される。街角に並べられた首吊りの死体。それらを嘲笑うかのように、酒瓶片手に通り過ぎていく街の人。
 この国は書物れきしをも焼き尽くす。人々が紡ぎ、伝え繋いできた思いを、火にくべた。
 ドロテーアは、手を固く握り締め、それらの光景を眺めた。
 オズは改めて、彼女を口説く・・・
「私の組織が、この国を再建する。組織の名は『金冠ゴールデン・コロナ』。悪しき魔女を始末する」
 オズはドロテーアに押し迫り、
「君の力が、必要だ」
 彼女を真っ直ぐ見据えた。そしてすっかり後ずさるドロテーアだが、ガシッと肩を掴まれた。
「わっ、ちょ……」
 全く、御伽噺おとぎばなしの王子というのは、決められたシナリオの中でしか存在しない、その世界しか知らない。彼らの世界では、往々にしてヒロインは王子に恋をする。神によって決められた自然の摂理は、誰しも疑わない。きっとこの彼の世界でも、ドロテーアはオズに恋をしているのだろう。
「さあミス」
 あるいは、思いの通じ合った二人は、
「目をつぶって」
 誓いのキスをする。
 それが彼のシナリオらしい。
 
 TO BE CONTINUED...

「剣の王国」作品ページ

犬がしっぽを振るのは喜びの証。しかし吠えながら振るのは怒りの証。後者を知らずに噛まれたことがあります。
しかしいくらでも気づくヒントはあった。
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