剣の王国まとめ

comicoで連載中の漫画「剣の王国」のまとめです。作品振り返りにどうぞ。

剣の王国 第76篇「2班編成」まとめ

 テントの扉が開かれ、中から一行を乗せた、車輪付きの船が出てくる。
 操舵そうだ席にはサザーランド。後ろでは何やらパンチネロが騒がしい。
「♪あーあーテステス」
 樽の上でライブでも開くのか。
「♪マイクのテスト中」
 パンチネロのエアマイクチェックにビクつき、思わず耳を塞ぐドロテーア。
「よーしお前ら、今日のコンサート、張り切って行くぞ!」
「お、お〜……」
「声が小せーぞ」
「おー!」
 船は着々とテントとの距離を離す。

 不思議なものじゃな
 あれほど憎んだ場所なのに
 離れるとなると今はどこか寂しい
 いや

 後ろの方では、ドロテーアがパンチネロの調子に合わせるのに忙しい。
「ノリが悪いぞおドジ」

 よそう
 もう決めたことだ

 サザーランドは舵輪だりんを握る。
「よし、加速するぞ、お前さんたち、しっかり掴まっとれ」
 燃え上がる炎。サザーランドは左脇のレバーを引いた。するとたちまち船の両脇にある車輪が回り始め、海水を巻き込む。
小型水車船ミニタービンS型、全速前進じゃ!」
 水しぶきをあげ、急速に勢いづく。
「速ええええ」
 その勢いで、パンチネロが乗っていた樽が倒れ、ドロテーアも船の側面にもたれかかった。
 ところで、彼女の隣に見慣れないショルダーケースが置かれているのだが。側面には開花した朝顔のような金の飾りが付いている。
『もう出発したか? 今どの地点だ』
 ケースから声がする。なるほど飾りではなく、蓄音機で言うところのラッパか。
「あっアルフレド、こちらドロテーア。もう出発したわ」
 よく見ると無線マイクも取り付けられていて、彼女はそれを介して状況を伝える。
「えっとね、たった今一つ目の印を通過中よ」
 目の前には、赤い布が括り付けられた廃船が。
「了解、作戦通りに行けば波浪はろうは大きくなる」
『ええ』
「無線は肌身離すなよ」
 アルフレドは首にかけたゴーグルを引っ張る。
「詳細は追って指示する」
『分かったわ』
 彼はどうやら一人離れ、一つの廃船のマストの上で待機している様子。
「頼んだぞ」
 無線を肩にかけ、背中に背負うは──
 ハングライダー。

「いいか、よく聞いてくれ」
 大きな世界地図を床に広げ、その周囲を囲むようにそれぞれが座る。
 アルフレドはスケッチブック片手に作戦概要を説明し始める。
「脱出作戦はこのにわとりの爆音を起点に実行する」
 指を指される鶏。
「は? おめー何勝手に決めてんだコラ」
 骨髄反射で目くじら立てる。
 ドロテーアが、作戦内容に反応した。
「爆音てことは」
「ああ、ドジ女の案で行く」
 そう言ってスケッチブックを開き始めた。
「私のアイデア採用された」
 喜びの拳を握るドロテーア。
「おドジの発案か、おもしれーじゃねーか」
 骨髄反射で手羽先返し。
「体内で爆音が鳴り響けば、鯨は海上に出て、その巨大な口を開く。俺たちはその口から出る」
「ひとつ教えとくれ」とサザーランド。
「なぜ鯨が海上に出て口を開けると分かるんじゃ」
「体内の振動を逃がそうとするからだ」
 アルフレドはイラストを描いて説明する。
コイツが鳴いた時、鯨は苦しんでいた。それは鶏の発する高音域の音響振動が、奴の臓器を揺さぶったからだ」
 思いの外、かわいいイラストを描くアルフレド
「音は気密性きみつせいの高い空間では外に逃げにくい。すなわち、海深うみふかく沈む鯨の体内では、共振時間は延長されることになる」
したがい、鯨は体内の音響振動を低減させるため、内側にこもる音を開放すべく、海上で口を開くことが予想される」
「なるほど」
「だが鯨を苦しめれば奴は暴れ出し、俺達の脱出には危険が伴う」
 ドロテーアは想像を巡らせる。鯨が苦しんだ時の状況を。
「大荒れの海原を進むようなものね」
「ああ」
「おいおい、ここは普通の海じゃないんだぜ」とパンチネロ。
 なんせ鯨の腹の中。
「あちこち船の残骸が散らばってるしよ」
「そう。だから2班編成で行く」
「2班?」とドロテーア。
「操舵班と空中偵察ていさつ班だ」
 再びイラストで説明する。
「空中偵察班は、遠方の障害物を目視で確認し、操舵班に伝える」
「操舵班は、その情報を受けてあらかじめ船の進路を微修正していく」
「ほうほう」とサザーランド。
「空を飛ぶってこと?」
「ああ、必要なのは無線機、グライダー。材料と時間さえあれば、どっちも作れる」
 アルフレドはサザーランドの方に顔を向ける。
「操舵はアンタに任せたい」
「鶏は爆音係」
「爆音とは何だコラ、美声係と言え!」
「私は私は⁉︎」
「ドジを仕出かさないよう大人しく待機する係」
 突き刺さるジト目。
「あっ、はい。」
 あしでまとい、レッテル貼りし、後頭部。
「なに真に受けてんだバカ。お前は操舵班のオペレーターだ。最も重要だぞ」
 フゥっとため息をついてみせた。
「空中偵察班は俺一人でいい。この作戦で脱出るぞ」

 アルフレドは、グライダーの取っ手を持ち上げた。吹き抜ける風が髪を撫で付ける。彼はマストから足を離した。
 一方、船ではパンチネロが船酔いを起こしているのだが……。
 兎角アルフレドは、風に乗った。

 TO BE CONTINUED...

補足

波浪=水面に起こる波の総称(風浪・うねり・磯波など)。ほぼ「波」と同義だが、主に風が原因で起こる波のことを言う。