剣の王国まとめ

comicoで連載中の漫画「剣の王国」のまとめです。作品振り返りにどうぞ。

剣の王国「第27篇 まだ利用価値がある」まとめ

 そう。
 銀の靴が片足だけなのは、あの時落としたからなの。
 拾う余裕も無くて必死に林まで走ったわ。
 林の中で震えながら隠れてたの。すぐに父さんたちが来るって自分に言い聞かせて。
 だけど、日が落ちても……誰も来なかったわ。
 恐る恐る家へ戻ったら、みんな酷い傷で倒れてた。
 そして置手紙が一枚。
 「お前の父親は国家反逆罪にて首都エメラルドに連行する。父親の釈放には銀の靴を献上の事。──領主」と。
 畑には父の姿はなく、折れた剣が残されていただけだった。
 裁判がいつ終わるか分からなかったし、ぐずぐずしていられない。
 私は護身用のエアリエルと片方の銀の靴を持ってすぐに家を出た。
 村の人の荷馬車に乗せてもらって、近くの小さい漁港まで行ったわ。
 でも私、村から出ることが初めてだったから、どの船に乗ればいいのかわからなくて。とりあえず、一番大きい船に乗れば首都に行くかなと思ってこの船に乗ったの。

 ドロテーアは、縫い終わった糸をブチっと歯でちぎった。

「もちろんこっそりね……。あっ見て見てパンチさん、アルフレド上着、上手につくろえだよ。って……」
 いびきをかいて寝入るパンチネロ。
 思わずこの状況にツッコミを入れる。
「私の話に興味無さすぎーっ」
 彼女は机の引き出しから羽ペンとインクを取り出す。
「私も寝ようかな。えーと『アルフレドへ 果実酒ホットサングリアをつくりました アルコールはとばしてます あたためて飲んでね』……と」
 そして畳んだシャツを枕元に置く。
「靴と服置いとくね」
 彼女は金の卵と自分の荷物を抱え、部屋を後にするようだ。
「ふたりともおやすみなさい」
 そう言ってシャっとカーテを閉めた。
 残されたアルフレドとパンチネロ。
 部屋にはしばらく無言の時が流れ、そのうちずずっと鼻をすする音が聞こえる。
 パンチネロだ。
 ──目から鼻汁が出るぜ
 アルフレドは枕の上で薄目を開けて思案を巡らせる。

 あいつの父親は助からない。
 俺がわざと船速を落とすから。
 首都に到着する時には既に父親は処刑されている。
 そこで俺があいつにこう教える。
 お前の父親を処刑するよう命じたのは女王だ。
 女王はお前の討つべき仇だと。
 復讐の念は強いやいばになる。

 アルフレドは目を強く見開く。

 女王と対峙たいじした時、怯まず冷酷にその心臓を貫ける「女」が、俺にはどうしても必要だ。
 うまくあいつにその役割をになわせることができれば……。
 あいつにはまだ利用価値がある。

 アルフレドは起き上がり、机の上を見る。
 フタが乗ったカップと、スマイルマークの描かれた手紙。

 情に流されるな。
 確実に「約束」を果たす事だけ考えろ。
 必ず、邪知暴虐の女王を除かねばならぬ。

 アルフレドは、湯気が立ち上るカップを口に近づけた。

 ジルコニアに代わって。

 それぞれの決意と想いを乗せ、船は走る。
 やがて朝になると、陽に照らされた水面が青く輝き、波に乗って進む船と、風に乗って進むカモメが並走する。
 アルフレドは部屋を物色していた。
 ──有り金全部で600ジェム。※1ジェム=¥100
 紙幣を数える。
 ──あとはほとんど貴金属……かさばるし必要ないな。
 箱に入っていたワークブーツに片足を突っ込む。
 ──靴(左足)に短刀2本。望遠鏡……。手持ちの矢があと2本だから銃か何かあればよかったが
 カチャっと望遠鏡を伸ばしてみる。
 ──武器庫の銃は全部持ち出されてたし、あとまともな部屋は船長室ここだけ……。これ以上探索しても大したもの無いだろ。
 ノーティラス号の船内は、上が操舵室と甲板、その下が船長室と弾薬庫/武器庫、一番下が燃料庫/工具庫、そして食糧庫となっている。
 ──本来こいつは調査船だしこんなもんか
 ふと、気配を感じ後ろを振り返る。
 しかし相手はサッと身を隠した。
 無論、この船にはあの二人しかいない。
「……何?」
 呆れ顔を向ける。
 壁の向こうでは、パンチネロがドロテーアの腕の中でジタバタしている。逃げようとでもしていたのか。
「何で俺様があんな奴に謝らなきゃならんのだ! 断固拒否だぞ!」
「大丈夫、私に任せて。アルフレドと仲良くなったから!」
 瞳の中にお花を作り、仲良くなったらしい時のことを思い浮かべる。
 何やらニコやかな二人はこんな会話をする。
 さっきは助かった。
 いいってことよ。
「絶対それ妄想だろ」
「おはようアルフレド
 周囲に花を咲かせたまま姿を見せるドロテーアと、彼女の腕の上でつーんとしているパンチネロ。
「具合どう? カップを取りに来たんだけど……やった飲んでる!」
 まるで、中々なつかない野良猫がエサを食べた時の反応。
「どうどう? 美味しかった? 昨日はね……」
 アルフレドは、彼女の足元を見て……

 そういえば昨晩こいつ、「銀の靴が左足だけ大きかった」って言ってたけどおかしくないか。
 左右がそれぞれ別の靴だったのか?
 「銀の靴」は「特殊SPELLスペル」……この世に一組しか存在しない。
 武器・道具・生物など、様々な物体に力が宿る一般SPELLスペル
 宿る物体と力が切り離せない特殊SPELLスペル
 前者は希少価値性が低いが、後者に複製はありえない。
 したがって特殊SPELLスペルである銀の靴が二組以上存在することはありえない。
 あいつが今履いている右足の「銀の靴」が本物である事は確かだ。
 とすると、サイズが違う左足の靴は偽物……?
 まあどうであれ俺には関係ないか。

「あのねっ、パンチさんからアルフレドに大事な話があるの」
 もしもーしと聞いていなさそうなアルフレドに呼びかけ、パンチネロにもハッパをかける。
「ねっパンチさん」
 アルフレドはポケットから握りしめた紙幣を渡してくる。
「これ」
「え? 何?」
「山分けだ。全部で600ジェム。ひとり200ジェム」
「山分け……って船にあったお金じゃないの? 泥棒よこんなの」
「既に船自体奪ってるのによく言う」
「ええっ、えっとそれはその……」
 パンチネロは、ドロテーアの手に握られた四枚の紙幣をまじまじと見つめる。
 ──全部で600ジェム、ひとり200ジェム。もしかして俺も頭数に入っ
「お前ら今日から船長室を使え。俺が操舵室に行くから」
 荷物を持って出て行くアルフレド
「それから俺はそこの鶏みたいに昔の思い出を大事にしてないんで。島で散々奴隷としてコキ使われた日々は全然気にしてない」
 ようには見えない。
「嘘つけええい、めっちゃ根に持ってるじゃねーか」
 しょっぱい顔で振り返る。
「船の操縦は全部俺がやる。首都に着くまで話しかけないでいいから。着いたら即解散。以上」
 シャーッとカーテンを閉めて行った。
「へっ⁉︎ ちょっと待って……」
 ちーん。
「お前、仲良くなったんじゃなかったのか?」

 TO BE CONTINUED...

「剣の王国」作品ページ

ジェムという通貨は本編ではしっかり記号で表現されています。
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