剣の王国まとめ

comicoで連載中の漫画「剣の王国」のまとめです。作品振り返りにどうぞ。

剣の王国「第23篇 どんな美女より美しい」まとめ

 のどかな田園風景が広がるアーカンザス
 一人の農夫が牛を引いて土を耕し、広い農地では羊が放牧され、そのかたわらでは農婦たちが井戸端会議。
「今年は不作よ。領主様に租税を払うのもかなり苦しくてね」
「うちもさ。畑を広げたいけど息子が奉公に出てるから人手が足りなくて……あら、おはようドロテーア」
「おはようございます、マリーおばさま、アンナおばさま」
 ドロテーアは収穫物をざるに乗せ、羊の群れの間をスタスタと歩く。
「明日うちの釜戸かまど使うでしょ? うちの分のパンも一緒に焼いといてよ、生地はあるからさ」
「もちろん! お昼前に行きます」
 少し離れた場所では、ある母娘おやこのこんな会話が聞こえる。
「ねえママ、パパっていつ帰って来るの?」
「パパはエメラルドで女王様のお城を工事してるからね。まだ帰らないのよ」
 ドロテーアは、住人たちの織りなす日常風景の間を通り抜ける。
「こら! また狼が来たって嘘ついたわね⁉︎ いい加減にしないと髪切り男爵がさらいに来るわよ」
「おはようございます神父様。今日の分の牛乳をお届けに参りました」
「ご苦労さま。今日も一日、君にカリバーンのご加護がありますように」
「お母様! もうダンスパーティのお迎えが来てるわよ!」
 小川のほとりの小さな家の前に、妙に品のある白い馬車が止まる。馬車を引く二頭の馬も当然白馬。
「ねえ、領主様のお屋敷ってどんな所かしら。夜通し踊るのよね。楽しみだわ!」
「ちょっと落ち着いてよ……! それより私のドレス汚れてない? もう一回見てよ」
「汚れてないってば。さっき何度も見てあげたでしょ」
 家から出て来たのは、めかし込んだ娘二人と、シックなドレスに身を包んだ母親。
 馬車のステップまでの間を赤い絨毯が敷かれ、従者が扉をあけて待ち構える。
 馬車の中には一人、男性の足が見える。
「はいはい、二人とも馬車にお乗りなさい。領主様をお待たせしたら大変」
「はーいお母様」
 彼女らを乗せた馬車が出発する。
 ドロテーアは、家の裏からそれを見ていた。
義姉ねえさんたちのダンスパーティは今日だっけ。領主様のお屋敷か……」
「あなたは行かないの? ドロテーア」
「えっ私⁉︎」
 収穫した豆の下処理をする彼女の横では、メガネをかけたガチョウが話しかけている。
 その周りには、黄色いヒナが、ガー、ガーと賑やかだ。
「無理よムリムリ! 私、地味だし招待してもらえたって誰にも踊ってもらえないもの。そもそもよそゆきの服も持ってないし……。それより今日はやる事がたくさんあるから頑張らないと。これが終わったら暖炉の掃除を済ませて父さんの畑仕事を手伝うの。新しくうねを作るから」
 ドロテーアはひたいを拭う。
「はあ! あなたみたいな子、ガチョウにもいるのよね。真面目なのはいいけど、そうやって自分を卑下するのは損よ。ドロテーア、もっと楽しい事を考えたらどう? 明るくなれるでしょ」
「楽しい事?」
「例えばそうね……パーティで踊るならどんな王子様がいい?」
「うーん、笑顔が素敵な人がいいな。髪の色は黒檀色か金色! 背が高くて睫毛が長くて指が綺麗で瞳が真っ青で、オリエンタルだけどコスモポリタンな顔立ちで、お傍に寄るとジャスミンの香りが……」
 ぽわわわ〜んと想像の花を咲かせる。
「私ったら意図せず乙女スイッチを押してしまったようね。でもあなたの女子的妄想力が死んでなくて安心したわ」
「ドロテーア、誰が怠けていいと言った?」
「父さん」
 農具を担いだ父親が、彼女の様子を見に来た。
 農具の上にはネズミが一匹、腰にはレイピアを携えている。
 彼の瞳は緑と青、左右で異なる色をしている。
「労働はドワーフの誇りだ。誇りを汚すな」
「ごめんなさい……」
「豆を洗ったらさっさと家の中に置きに行きなさい」
「はい……」
 父親はザッザッと土を鳴らし去って行った。
「ドロテーア大丈夫?」「元気出して」
 ガチョウの子供たちが心配する。
「あの怒りんぼ、本当に石頭ね。ちょっとお喋りするくらい気にする事ないわよ」
「私……働かなくちゃ」
 ドロテーアはそそくさと豆を持って家へと急いだ。

「ちょっとドロテーアに厳しすぎるよグランピウス。あの子を泣かせないでくれよな。僕らの大事な友達なんだ」
 そう話すのは、彼の農具の上に乗ったネズミ。
「ちゃんと働いてるのに可哀想だと思わない?」
「……そうだな」
「え?」

 ドロテーアが家の中に入ると、押さえ込んでいたものが溢れ出す。
「ズッ……また叱られちゃった」
 鼻をすすり、目元を拭う。
「父さんに嫌われちゃう」
 なんとか涙をこらえる。
「泣いちゃだめ。いつも通りに笑ってないと皆が心配する……」
 ふと、机の上に箱が二つ。
「?」
「こんな箱あったっけ? 誰かに送るのかな……。宛先はどこかしら、メッセージカードがついてる……?」
〝ドロテーア 17歳の誕生日おめでとう〟
 彼女の瞳が再び潤みはじめる。

「娘にはずっと苦労させた」
 グランピウスは、土を耕しながら、チーズをかじるネズミに胸の内を語る。
「不甲斐ないわしのせいで、義姉あねたちと同じように遊ばせてやれないが、あの子は嫌がらずに毎日まじめに働いて、素直で優しい娘に育った」

 ドロテーアが一つ目の箱を開けると、銀の靴が現れた。

「慎ましく、芯は強かで、心はどんな美女より美しい。自慢の娘だ。つい厳しくしてきたな」

 二つ目の箱からは、すみれ色のドレスが出てきた。
 すでに銀の靴を履いていた彼女は、踊るように喜び、自分の体の前にドレスを合わせて見せる。
 その頃、グランピウスの元には、あの赤茶色の男、ドードーが訪ねていた。
「おい、そこのお前、畑仕事中悪いが質問に答えてもらう」
 上着を羽織り、ザッと土を踏んで近づいてくる。
「しかし報告通り何もないところだな。ああ失礼、俺の名はズム・ドードー。王国の調査機関参事補だ」
 彼の後ろには、あの長髪の剣士ビーコートが、なんだか気まずそうに帽子を深くかぶる。
「単刀直入に聞くが、銀細工師の部族長、グランピウス・グレーテだな?」
 ネズミが慌てふためき、グランピウスは奥歯を噛み締めた。

 TO BE CONTINUED...

「剣の王国」作品ページ

そこかしこで童話が生まれる町。
剣の王国(つるぎのおうこく) | yoruhashi - comico(コミコ) マンガ