剣の王国まとめ

comicoで連載中の漫画「剣の王国」のまとめです。作品振り返りにどうぞ。

剣の王国「第19篇 全て己次第」まとめ

 揺れる大地の正体。それは、眠りから覚めた巨大な竜だった。
「フギンとムニンか? 何を暴れている? わしはまだ三千年ほどしか寝てないぞ」
 この島は、巨大な竜の頭部に生えるように乗っかり、鼻先と胴体の上にもふた回りほど小さい島が出来ていた。
 この竜からしてみれば、アルフレドはミジンコ同然の小ささだ。
 彼はひょいひょいと船の見張り台に登り、竜に挨拶をする。
「初めまして大旦那様、お目覚めはいかがですか。お腹が空いていらっしゃるでしょう。……三千年間お眠りになっていれば。ささやかですがお食事をご用意してますよ」
 そう言って薬漬けリンゴの蓋を開けた。
 海の中ではパンチネロが……彼はなすすべなく海へ沈んでいた。
 ──ああ……俺様ここで死ぬのかな。せめてブーメレン……音楽の都の楽団に入りたかった。

 昔からずっと夢だったんだ。
 ブーメレンに行った事もなかったけれど、彼らの名を王国で知らない奴なんていなかったから、俺様も、もちろん知っていた。
 資金を貯めてブーメレンに行こうと、雨の日も風の日も毎日街頭に立って歌った。
 でも、
「下手くそ」「やめちまえ」「ぎゃはは」
 俺様には才能が無かった。それでも、俺様は歌をやめられなかった。
 船に飛び乗り海に出た。行く当てなどなかった。船の目的地も知らない。けれど、きっとどこかで俺の歌にとっての道しるべが見つかると、根拠もなく信じていた。
 だが、船は途中で嵐にい、難破した。気づけば俺様はこの島に流れ着いていた。
 この島は居心地が良かった。親分もいるし、仲間もいるし、俺様の本当の居場所はここだったのだと思った。
 しかし、愉快ゆかいな時間はつかだった。フギン様たちがどこからか変なガキを連れて来たのだ。
 奇妙な奴だった。
「ヒヨス草3grグラオンマンドレイクの実8gr、アヘンの果汁7gr……マンドレイクの実が足りない……」
 俺様はどうしてもそいつが気に食わなかった。
 他の鳥たちによると、あの「三番目の魔女ジルコニアの弟子」らしい。街にいた頃に聞いたことがあった。三番目の魔女には優秀な弟子がいると。

 アルフレドは当時ジルコニアと死に別れ、彼女の契約によって竜の夫婦に引き取られることになった。
 彼は自分が夫婦に食べられない代わりに夫婦の奴隷となる契約を交わす。
 そして何やら毒草を集め、薬を作るらしい。足りない薬草は自ら育てた。土を掘り、苗を植え、周りに囲いを作る。
 しかしある晩、わずかに成長していた苗が、パンチネロによって踏み荒らされてしまった。茎は折れ、葉っぱも散りじり。翌朝苗を見に来た彼は立ち尽くした。
 アルフレドはもう一度植え直す。今度は有刺鉄線を巡らす事にした。もう誰も近づかないように。作業の途中、指を怪我してしまう。
「……っ」
 丁寧に水をやり、雨が降ればシートをかぶせる。
 いく年経ったか、苗は成長し、実が成った頃、彼は髪を切った。
 完成した薬液にリンゴをトプンと落とす。そして蓋をする。
 彼の肉体もまた、たくましく成長していた。
 長い間、パンチネロもまたその様子を見続けてきた。
 ──何だよアイツ、さっさと諦めやがれよ、昔の俺様みたいによ

 アルフレドにとって、今日がそのリンゴを使うべき時なのだ。
 ──チャンスは一回限りだ。絶対に外せない。
「食事だと? グハハ……面白い冗談だな。豆粒のお前にわしの腹を満たすものが作れるか。それよりフギンとムニンはどこだ……返事もせずに何をしているやら」
 アルフレドはポーンとリンゴを上に投げる。
「まあいい、どれひとつ味見してやろう」
 そう言って口を大きく開く。まるで船ごと飲み込みそうだ。
 ──すぐに実を吐き出されないようにまっすぐ喉の奥へ飛ばす!
 アルフレドは弓を構える。
 ──もっと引き付けろ!

 今更かもしれない。けどもし叶うなら、ブーメレンに行きたい。

 アルフレドは投げ出したリンゴめがけて弦を引く。
「あああああああッ」

 夢を諦めたくない。今度こそ。
 ──逃げない!

 海中で大粒の涙を漏らしたパンチネロの瞳に、希望が広がる。
 ドロテーアが差し伸ばした手を、絶望の淵で差し伸べられたその手を、掴まないでいられるか。

 海上では、矢に結び付けられたリンゴが大旦那の喉へと突き刺さる。
「……‼︎?」
 大旦那は目を丸くした。
「だめーっアルフレド! まだドロテーアが」
「は……⁉︎」
 しかし既に大旦那は海へと沈んだ。

 TO BE CONTINUED...

「剣の王国」作品ページ

彼らの軌跡を本編でぜひ
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