剣の王国まとめ

comicoで掲載されている漫画「剣の王国」のまとめです。作品振り返りにどうぞ。

剣の王国 第1篇「テンペスト(リメイク)」まとめ


 とある島。
「南東から船が来るよ、アルフレド。こっちに引き寄せる?」
 そう言葉を発したのは、ふよふよと宙に浮かぶ赤いリンゴだ。
「ああ頼む」
 島の木の上から、海の向こうを見張るアルフレド
「船の大きさからして乗員は10人前後だろう。全員縛り上げるぞ」
「オッケ〜」ふよふよとリンゴは降りていった。
 アルフレドは一人立ち上がる。
「今日こそ島を出る」
 背丈はすでに大人と変わらない。
「『白兎のジョーカー』」憎らしげにつぶやく。「絶対に殺してやるからな」

 海の様子は、随分と荒れてきた。大きな波が一定方向に流れる。まるで人工的に作られたプールのよう。
 導かれているのか、向かっているのか、とかく一隻の調査船がこの波に揺られている。船の名前はノーティラス号。
「ありえない、あんな所に島など……」甲板では訝しげな声が上がった。
「地図にない島だ、本当に行くんですかい、やめておいたほうがいい、トンプソン船長」
 望遠鏡を抱えた小太りメガネが、船長に進言していた。
「何を言っている、上陸するに決まってるだろう」
 船長と呼ばれた男は、腕を組み、全くもって聞く耳持たず。
「数々の遺跡を調査してきたこの私が、伝説のアトラント遺跡の手がかりを捨てて上陸しない? 愚問だな」
 探検家ネモ・トンプソン。彼は随分と野心家らしい。
「私は王国一の探検家として女王様に勲章を頂き、やがて王都の宮廷に迎えられるのだ」
 その様子を思い浮かべ、満悦な表情を浮かべる。
「お前たちは金で雇われた下流階級ロワーだろう。つべこべ言わず、上流階級アッパーの私に従っていればいいんだ」
「しかし……」
「さあ、働きたまえ」腕をまっすぐ伸ばす。
 小太りメガネは船の縁でため息をついた。
「さっきからしおの流れがどうも変だ」
 一定方向に流れる大波。彼らが行き着く先には忽然こつぜんたたずむ孤島。空を覆う一面の曇り空において、何故だか島の上空だけは円形の晴れ間がのぞき、差し込んだ陽の光によって、島全体が照らし出されている。どうにも神がかった光景なのだが、小太りメガネにとっては不安を募らせる光景でしかない。
 ……あの島に引き寄せられている気がする
 ……嫌な予感がするぞ……
「トンプソン船長!」
 三人の船員が甲板に出てきた。唇の青い男と、スキンヘッドの男、そして髪がもじゃもじゃの男だ。
「倉庫に女が隠れてたぜ。武器まで持ってやがった。どうする」
 青い唇の男が、指示を仰ぐ。片手には女から取り上げたらしい銀製の細身の剣レイピアを持っている。
 彼らの前に突き出された女は、その場にへたり込み、顔をうつむかせ、長い髪の毛を床に付けている。
 ふと彼女は顔を上げた。「あの私、ドロテーアと申します! こっそり忍び込んでごめんなさい! でも私、早く王都に……エメラルドに行かなくちゃいけないんです」差し迫った様子。
 船長は、腕を組み彼女を見下ろした。「無賃乗船は困るな」
 彼女は慌てる。「少しならお金あります! 足りない分は働きます! 掃除も洗濯も料理も得意です! 船のお仕事も教えて頂けたら頑張ります」グッと拳を掲げ、力強くアピールする。
 しかし反応は思わしくない。「フム……そう言われてもね、お嬢さん」船長は二つに割れたあごを指でさすった。
「ま、待って下さい! じゃあ今から10分で甲板をピカピカにしてみせます。綺麗にできたら掃除婦として乗せてください」そう宣言すると彼女は、「モップ貸してください」と言ってスキンヘッドからモップを奪い取る。
「大丈夫です!」長い柄を持ったまま振り返る。「ちり一つ残しませんか……ら……」気付くと、モップがバケツを打ち付け、打ち付けられたバケツは、青唇めがけて水を放出する。彼の足元には水たまりが出来上がり、中身を失ったバケツは、虚しい音を立てて転がった。カランコロン。
「あの……ごめんなさい……せ……洗濯、そう、洗濯も大得意でありまして、任せてください」
 無言になる一同。彼らからしたら「この期に及んで」という感じだろうか。
「ダメだこいつ海に落とそう」
 青唇とスキンヘッドに引きづられて行くドロテーア。「ああああ、ごめんなさい、服も働いて弁償します、何でもします! お願いしま……」
「待ちたまえ」船長の気が変わったようだ。「よく見れば働き者のお嬢さんのようじゃないか」
 船長は彼女の前まで来てしゃがみこむ。「乗船を許可しよう。王都までの船旅に同行したまえ」
 いったい彼は何故態度を変えたのだろうか。
「なに、お金なんていらんさ、女性には女性なりの払い方がある」
 ドロテーアは顔を曇らせた。
「あの、『何でも』はそういう意味じゃ……」
 すでに背を向けた船長には、聞く耳を持つ意思はないらしい。
「よし、島が近づいてきたぞ! 今すぐ上陸する。さっさと準備をしろ」
 船員は口々にドロテーアにブーイングを浴びせた。
「世間知らずめ」と青唇。「『何でも』は取引では禁句だ」とスキンヘッド。「とんだド素人だな」「船長も物好きだねえ」「おい女、おめーも降りんだよ」

 島に上陸した船の様子を、赤い鳥が眺めている。
 船にかけられた縄はしごを、一人ずつ降りて行く。
「よいしょっと……」ドロテーアがはしごの下までたどり着いた。
「ふむ、島の気候は安定してるな」円形に広がる青空を見上げる船長。「二手に分かれてこの島を調べるぞ」
 火山のような形状の山を中心に、森が広がる円形をなしたこの島を、二方向から周回させるつもりらしい。
「夕刻には戻れ、古代都市アトラントの手がかりがあれば持ち帰るんだぞ」
 指示を出した船長は、
「行くぞ! ゴンザーロ、この私、ネモ・トンプソンの名を王国史に刻むのだ」
 しきりにメモを取っていた小太りメガネを連れて行ってしまう。
 ドロテーアは困惑した。「私はどっちへ行けば……?」
 ふと彼女の背中にピストルが突きつけられた。「‼︎」
「俺たちといっしょだ」と青唇。「お先にどうぞ、娼婦見習いさん」ニヤけた表情で彼女を煽った。
 ドロテーアはムッと顔を赤らめた。

 島の木々はのびのびと成長し、赤々としたリンゴを実らせている。
 ドロテーアと三人組は、地面を這う巨木の根を、またぎまたぎ歩みを進める。
 よく見ると彼女は、片方が銀の靴で、もう片方は木の靴という、ちぐはぐな足元をしている。
「あーあ、くそダリィな」スキンヘッドが呟く。
「今回の船長、人使いが粗くねー?」愚痴に乗っかる青唇。「俺たちは舟守ふなもりであって探検家じゃねーぞ」
 髪もじゃの男は、黙って一番後ろを歩く。
 よく見ると彼らはそれぞれピストルを手にしている。「舟守」と言ったが護身用だろうか。青唇はもう片方の手に、ドロテーアから奪ったレイピアを掴んでいる。
「なあこの島マジで古代都市アトラントかな」
「バカあれは海に沈んだ呪いの島だ」
「呪いの島?」ドロテーアが反応した。
「知らねえのか? 俺ら舟守の部族の間では有名な話だぜ」
 彼らのやり取りを、アルフレドが木の上から伺っている。
「出るんだよ、女の霊がな」青唇が襲い来る幽霊のポーズで彼女を脅かす。
 髪もじゃもまた、似たようなポーズで彼女をからかった。「暗い海から声が聞こえて来るらしいぜ。怖くて眠れないかもな〜」
「大丈夫だろ、今夜は船長と仲良く寝るらしいしな」とスキンヘッド。
「ははっちげーねー」青唇が笑い出す。
 ドロテーアはいよいよ腹を立て、プイっと背を向け先に進んだ。
「くれぐれもベッドではドジこくなよ」
「そりゃ無理だ、あの調子じゃ」
 三人組はドッと笑い出した。
 一人先を歩くドロテーアは、心なしか周囲が不気味でならない。
「あーあ、適当にやって引き揚げようぜ」と青唇。
 その時だった――

『揺らすよ』

 どこからともなく不気味な声が聞こえてくる。
 皆その場に足を止めた。
 彼らの頭上では、アルフレドが木の幹に姿を隠している。
「何だ今の……⁉︎ お前か?」青唇がドロテーアを指差す。「女の声だったぞ」
「違っ……私、一言もしゃべってません」必死に否定する。
 ゴツッ。突如青唇の頭にリンゴが飛んで来た。「いてっ」彼はがしがしと頭をかいた。「なんだよ……」

『赤い実が熟れてるよ……揺らして、落として……』

 ドロテーアはすっかり怯え始めた。「わ、私じゃない、今しゃべってるの私じゃない」
 だとすれば――同じく怯えた様子の髪もじゃが、「女の霊だ‼︎」と叫び声をあげた。
 空気が張り詰める。
 ふとドロテーアの髪がひとりでに持ち上がり、毛先を結んでいた竜胆りんどう色のリボンが解かれた。「きゃ、今誰かが私の髪を触った‼︎」
 その瞬間、彼女の足元には、蛍光ピンクの線が現れ、網目のように張り巡らされる。
 目を奪われる青唇たち。「な、何だ」
 ――巨人の紐枷ガリバー・ニール
 光の線は彼女の体を包み込み、みるみる彼女を縛り上げて・・・・・ゆく。これではまるで、光というより紐じゃないか。
「これは、糸?」手首も縛られ、ドロテーアは窮屈そうに声を上げた。
 足も縛られ、もつれた足元から木靴が脱げてしまう。
「ぎゃふっ」途端に地面に倒れ込んでしまった。起き上がろうにも、彼女は両手を縛られている。
「はあ、はあ、あの、誰か」なんとか顔を上げ、助けを求める。
 しかし彼らは血相を変えて逃げ出してしまった。「うわあああ‼︎」「逃げろ‼︎ 逃げろ‼︎」
「えっそんな……待って、お願い」
 代わりに彼女の元へやって来たのは、木から飛び降りて来たアルフレド
「置いて行かないで‼︎」
 泣き叫ぶ彼女の上に着地し、彼女の頭を押さえつける。「いたい、いたいです」
 アルフレドは逃げた三人組めがけて光の紐を放った。
 真っ先に捕まったのは髪もじゃ。グラッと体勢を崩し、
「うっ」
 そのまま地面にみぞおちを打ち付けた。
「うごっ」
 次に捕まったのはスキンヘッド。「俺も、俺にも紐が」片足首を縛られる。
 青唇は、二人を置いて走り出した。「くそっ、わりいなお前ら」
 髪もじゃはすでに気絶していて、残されたスキンヘッドは、及び腰でピストルを構えた。「て、てめえのSPELLスペルか、何者だ畜生」
 アルフレドは動じることなく、彼に近づく。スキンヘッドのピストルおどしがまるで効いていない。
「紐を解け、さもなきゃ撃つぞ、おい、何とか言え」
 臆病者ほどよく吠える。
 ところで、この彼に向かってリンゴが飛んで来ているのだが、
「悪く思うなよ、仕掛けてきたのはそっちだ」
 リンゴはピストルにあたり、
「うっ」
 その隙にアルフレドが彼の胸ぐらを掴み、
「うおっ」
 足を内側に引っ掛ける。
 たちまち彼は、地面に背中を打ち付けた。
「ぐあっ」
 アルフレドは更に、みぞおちめがけて拳を打ち込んだ。
「うぐ」
 すっかり彼は、気を失った。
 アルフレドは最後の一人を目視する。
 彼は全速力で森を駆け抜ける。
「はあ、はあ、やべえよ、何だよアイツ」青ざめながら走る。
 ふとそこへ、ボトボトとリンゴが降ってきた。「はっ」
 青唇は、腕で頭を庇った。「マジでなんなんだよこの島はよ‼︎」
 リンゴの雨で足止めを食らう間に、彼の背後に追いつくアルフレド。青唇を見据えたまま、背中の弓矢を一本引き抜き、弓を構えた。弓には先程の光る紐で弦が張られている。
「ほっちょ……待てよおい」
 容赦なく放たれる。
「死にたくな」瞳に映るは迫り来る矢先。
 射抜かれたのは、落ちてきたリンゴと彼が頭に巻いていたヘアバンドだ。彼はすでに気を失っている。
「やれやれだ、今回もド素人か」
 ここにきて、初めて声を発したアルフレドを、ほうけた表情で見上げるドロテーア。あるいは初めて彼に「人間味」を見出した瞬間かもしれない。
 アルフレドはリンゴから矢を引き抜く。青唇はもはや泡を吹いていた。
 ドロテーアは彼に訴えかけた。「あ、あの、私達ここを荒らすつもりじゃないんです」
 ザッザッと地面を鳴らして近付き、弦の張られていない弓を地面に放り投げる。
「敵じゃな……」
 彼女の前にしゃがみこみ、おもむろに荷物を開き、中から折りたたんだ布と、黒い瓶を取り出した。
「え」
 そして彼女の目の前で瓶の中身を布に染み込ませる。
 ドロテーアは彼の意図を察し、顔を強張らせた。
「いや、やめて、ん‼︎」肩を押さえられ、布で口を塞がれる。
「んーんー‼︎」バタバタともがき抵抗するが、
 やがて彼女は、
 静かになった。

 TO BE CONTINUED...

[2018.12.01] 書き直し(省略していた表現を追加)。改めてすごい量だなあ。